
メキシコのお酒といえば、そう、テキーラ!
7月24日は「国際テキーラの日」と定められているなど、世界中にファンの多いこのお酒。日本でも、誰しもが聞いたことはあるテキーラですが、その原料や歴史、分類や美味しい飲み方まではなかなか知られていません。今回は、テキーラに関するエトセトラをノート!ここまで知っていれば、あなたも立派なテキーラ通です。
テキーラと認められるための厳しい条件とは?
アガベ(竜舌蘭)を原料とする蒸留酒のことをメスカル(Mezcal)と呼び、その中でも、特定の原料・地域・製法で作られ、メキシコ政府によって認められた蒸留所が生産しているものをテキーラ(Tequila)と呼びます。これは、原産地呼称制度という保護制度で、フランスのシャンパーニュ地方で作られ規制の条件を満たした発泡性ワインのみをシャンパンと呼び、その他はスパークリングワインと呼ぶのと同様です。テキーラと認められるためには下記のような条件があり、認定されたテキーラにはメキシコ政府公認規格の生産者番号がラベルに記載されます。
- アガベの産地はハリスコ州、グアナファート州、タマウリパス州、ナヤリ州、ミチョアカン州の5つの州のみ
- 原料はブルーアガベ(正式名称はアガベ・アスール・テキーラ・ウェーバー)のみで、51%以上使用すること
- 原則としてテキーラ村とその周辺で蒸溜されたものであること
- 最低2回は蒸留すること
一方、メスカルは、オアハカ州などで多く生産され、アガベもブルーアガベ以外の様々な品種を用い、製造時に付けるスモーキーなアロマが特徴です。テキーラとメスカルの違いはこちらの記事を参考にしてください。
先住民とスペインの文化の混合によって生まれたテキーラ
テキーラの名前の由来は、メキシコ、ハリスコ州の街の名前です。この地域では、約2000年以上も前からアガベを栽培し、葉を屋根の材料にしたり、葉の繊維からロープを作ったり、樹液を傷の治療薬に使ったりと多様な用途に用いていました。また、アガベの蜜を発酵させたプルケという低アルコール度数の発酵酒を製造していたことも、先住民の史跡などから判明しています。
16世紀にスペインの植民地支配が始まると、アラブから継承した蒸留方法をメキシコへ持ち込み、現地で調達できるアガベを用いて蒸留酒(メスカル)を作るようになりました。当時から、良質なブルーアガベが採れるテキーラ村のメスカルは品質が高く、同地のメスカルは「Vino Mezcal de Tequila(テキーラのメスカル酒)」などと呼ばれ、名声を得ていきます。17世紀には大量生産が始まり、19世紀に入るとテキーラの名称でアメリカへの輸出が開始されました。その後、20世紀中頃に起こったマルガリータなどのテキーラ・カクテルのブームや、メキシコオリンピックでのプロモーションを受けて、世界中でテキーラの名前が広く知られるようになります。1974年にはテキーラの原産地呼称制度が開始され、メキシコ政府による品質管理が進み、”テキーラ”のブランドが一層強化され、現在に至ります。
先住民文化とアラブやスペイン文化が混合して生まれたテキーラは、まさにメキシコを象徴するような存在といえます。メキシコ中西部のテキーラ産地は、その歴史的価値が評価され、2006年に「リュウゼツラン景観と古代テキーラ産業施設群」としてユネスコ世界遺産に登録されています。
テキーラの原料ブルーアガベとテキーラの製造方法
テキーラをメキシコのお酒と聞いて、原料をサボテンだと考える人もいるようですが、既に前項で記載の通り原料はブルーアガベで、サボテンではなくアロエに近い植物の一種です。メキシコでは130種類以上のアガベが生息していますが(200種以上という説もあり)、テキーラに使うことができるアガベはブルーアガベという品種のみ。テキーラの原料に用いるのは、アガベの葉ではなく糖分を含んだ地下茎の部分で、葉を切り落とした形が巨大なパイナップルに似ているため、スペイン語でパイナップルを意味するニャ(Piña)」と呼ばれます。
テキーラを作るためには、ブルーアガベを約8年もの時間をかけて栽培し、ピニャを直径約80センチメートル、重さ40キログラム以上になるまで育てる必要があります。十分に育ったブルーアガベのピニャを、釜で蒸し焼きにして糖化を進めてから粉砕・圧搾してアガベの果汁を絞り出し、その果汁に酵母菌を入れて発酵させます。発酵した低アルコール度数の果汁を2度以上蒸留し、アルコール度数を40%ほどまでに高めると、テキーラが出来上がります。エイジド・テキーラにするためには、蒸留後にオーク樽で貯蔵し熟成をします。
テキーラの分類:樽熟成したテキーラはブランデーのような味わい!
テキーラは、原料によってミクスト(Mixto)とブルーアガベ100%の2つに分類されます。ミクストの場合、ブルーアガベを51%以上使用し、残りはサトウキビ、トウモロコシ等の他の糖分を加えます。一方、ブルーアガベ100%は、その名の通りブルーアガベのみを使用しています。ブルーアガベ100%のテキーラを、プレミアムテキーラと呼ぶこともあります。
また、ブルーアガベ100%のテキーラは、熟成度合いによってブランコ、ホベン、レポサド、アニェホ、エクストラ・アニェホのように分類されます。樽熟成されたテキーラはエイジド・テキーラとも呼ばれ、樽で熟成が進むに従って琥珀色が強くなり、ウィスキーやブランデーのようにオークの香りや複雑でまろやかなフレーバーを味わえるようになります。
- ブランコ(Blanco):蒸留後、樽熟成をせずにボトリング。樽熟成をしたとしても2ヶ月以内。シルバー(Silver)と呼ばれることも
- ホベン(Joven):ブランコとエイジド・テキーラをミックスしたもの
- レポサド(Reposado):オーク樽で2ヶ月から12ヶ月間熟成。ゴールド(Gold)と呼ばれることも
- アニェホ(Añejo):オーク樽で1年から3年間熟成
- エクストラ・アニェホ(Extra Añejo):オーク樽で3年以上熟成
- テキーラの分類(原料別、熟成度別)
熟成度合いで異なる!テキーラの美味しい飲み方
自分好みの飲み方でお楽しみあれ!というのがテキーラですが、ここでは代表的な飲み方を紹介します。樽熟成をしないクリアな飲み口のブランコは、レモンや塩、サングリート(トマトジュース、オレンジジュース、ホットソースが入ったチェイサー)などを伴って飲んだり、カクテルにして飲んだりします。
一方、レポサド、アニェホ、エクストラ・アニェホなどのエイジド・テキーラは、よく冷やしてストレートで飲むのがおすすめです。テキーラそのものの香りや味わいを楽しむため、深めのグラスを選ぶと良いでしょう。ワイングラスの名門ブランドRIEDEL(リーデル)社も、テキーラ用のグラスを発売しています。
ストレートで飲む場合は、アルコール度数が高いので食前酒や食後酒として楽しむのがおすすめですが、オン・ザ・ロックでまろやかにしたり、炭酸水で割ってテキーラ・ハイボールにしたりすると、食事と一緒に楽しみやすくなります。
- テキーラの飲み方の例
最大消費国はメキシコではない!?市場動向と企業別売上ランキングを紹介
テキーラは生産量の7割以上がメキシコ以外の国々へ輸出されており、輸出量の約8割が隣国のアメリカへ向かっています。今や、世界最大のテキーラ消費国はアメリカなのです。アメリカ市場では、近年は高級路線のラグジュアリーテキーラの人気が高まり、市場を牽引しています。
テキーラ市場の企業別売上高シェアを見ると、第1位はホセ・クエルボ社 (José Cuervo)がランクイン、”Best of Tequila”とも称される世界のトップブランドです。同社はスペイン植民地下の1795年に創業し、1800年代にはアメリカへの輸出を開始。社名と同名の「ホセ・クエルボ」や「1800」といったブランドを展開しています。第2位はビーム・サントリー社(BEAN SUNTORY)で、ブランドは「サウザ(Souza)」。サウザは1873年にドン・セノビオ・サウザ氏による創業で、同氏は、初めてラベルにテキーラと記してアメリカの酒類コンペディションへ出したなどの功績から、テキーラの父とも呼ばれています。第3位は1989年創業のパトロン社(Patrón)。社名と同名の「パトロン」ブランドは、新しいブランドながら洗練されたマーケティングによりアメリカのセレブ層に支持され、ラグジュアリーテキーラの代名詞として米国市場で高い人気を得ています。第4位はブラウン・フォーマン社(Brown Forman)で、1870年創業で自然発酵や長期間熟成などこだわりの高い製法の「エラドーラ(Herradura)」やセカンドラインの「ヒマドール(Jjmador)」などのブランドを展開しています。全体では1,600以上ものテキーラブランドがあると言われていますが、市場を見ると、6割近くがこの4社のブランドによって占められていることになります。
- 2015年テキーラ市場の企業別売上高シェア
- 各社の代表的なテキーラブランド
テキーラについてのエトセトラ、いかがでしたでしょうか。
ぜひ、皆さんそれぞれのお気に入りのテキーラと、好みの飲み方を見つけ、テキーラを思う存分楽しんでみてくださいね。それでは、サルー(Salud)!(乾杯!)
■参考サイト
VIX:Origen del tequila: conoce su historia
CMLZ: El tequila: historia, origen y leyendas
El financiero: Cuervo quiere ‘tomar’ más cuota de mercado en Estados Unidos